北海道山行記 2
 

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Prologue

7/3(金) 15時半で仕事を切り上げる。16:10、津田沼着。駅前のダイエーで買い物をし、17時の総武快速に乗る。上野着は17:40。5分後、稚内まで同行のPの登場。平然と「八甲田」−「大雪」の2夜行を乗り継いで北へと向かった全盛期のパワーは既に無く、稚内までの19時間は1人ではさすがに辛い。ヒマを潰す相手がいるのは幸いであろう。17:54、「やまびこ19号」は定刻に発車。夕暮れの東京を後にする。盛岡着20:34、9分乗り換えで「はつかり25号」。窓の外は既に闇。ケーキやワインやチーズやビールで間を持たせながら北上する。22:58、青森着。10分乗り換えで「はまなす」へ。

7/4(土) 目が覚めたのは南千歳の辺りだった。札幌着6:18。眠い目をこすりながら途中下車。駅構内のサンディーヌで朝食。最近これがパターンとなっている。発車10分前にホームに戻ると、「オホーツク1号」の自由席は既に満員。7月最初の土曜日とあって、大雪に花を見に行く人達が多いらしい。7:05、札幌発。旭川までずっと立ち。旭川では10分乗り換えで「礼文」へ。車内は丁度定員と言った所。8:49、定刻に発車。北上するに連れ、車窓は水田から牧草地へと移り変わり、北へ来た実感が湧いてくる。かつてこの線路を、あるいは平行して走るR40を、何度となく駆け抜けた時の様々な想いが甦る。オレはまだ、こんな所を漂っているんだな。この辺から小雨が降り出す。明日までには回復してくれればいいが。稚内着12:45。上野から18時間51分。


 駅レンで、予約しておいたスターレットを借りる。13:10のフェリーで礼文に渡ると豪語していたPも、何故か助手席に納まっていた。まあ、いいか。サロベツの海岸線を流す。6月に低温が続いたおかげで、例年より花期が遅れた原生花園は、今が丁度花盛り。色とりどりの花が咲き乱れている。天気も回復して来て、海の彼方には利尻岳がその秀麗なシルエットを垣間見せる。空が広いし、風も気持ちいい。やっぱり北海道だな。フェリーターミナルで礼文行きに乗ったPを見送り、車を返してから、再びFTへ。16:10の利尻行きに乗る。あれから10ヶ月、やっと帰れるんだな。夕陽を浴びて吃立する利尻富士が、少しずつ大きくなって行く。



Act  I 7/5(日)利尻岳

 蹴っ飛ばされて目が覚めた。うわっ、寝過ごしたか!と思って時計を見ると、まだ午前4時前。あれっ、4時半起床・5時出発のはずだったよなあ。「もう外が明るくなったから出発しようよ」、とは三浦嬢のお言葉。ま、いいけどね。しかし、YHも15年やってるけど、男子部屋に入って来てケリを入れた女性は彼女が初めてだ。顔を洗って昨夜頼んでおいた弁当をザックに入れ、4:15分に出発。まだヘルパーが1人しかいないと言う事で、昨夜のミーティングはなく、おかげで今日利尻に登るのが何人なのか、実は良く分からない。とにかく、昨夜の食堂で意気投合した4人で出かける。天気は晴れ。暑くなりそう。早く出発したのは正解かも知れない。

 1時間ほど車道を歩くとキャンプ場に着く。ここからちょっと入った所が日本百名水の甘露泉。登山口にして最終水場。2Lのペットボトルを満タンにしてオニギリを1つかじり、さあ出発。三浦嬢と藤村君は今日の夕方の船で島抜けをしたいと言うので、じゃあ各自、自分のペースで登りましょうと言う事になった。この2人、体力には自身があると言うだけあって、さすがに速い。あっと言うまに見えなくなる。僕が3番手。最後が永塚君。この先、僕が休憩を終えて出発しようとすると永塚君がやって来る。また、僕が休憩中の三浦嬢に追い付くと、向こうが出発すると言う感じだった。同じYHに泊まり合わせるのも何かの縁だし、本当は皆でワイワイ登る方が楽しいのだけれど、今の時期のホステラーはけっこう先を急ぐ人が多くて、中々そうはならない。やっぱり北海道は9月の方が、ホステラーが皆ノンビリしているし、酔狂だし、いいなあ。

  40分歩いて5分休憩のペースで守りながら、樹林帯の中を少しずつ高度を上げて行く。時折、木々の切れ間から、礼文島が見え隠れ。それが少しずつ低くなってゆく。向こうは標高500mしかないから、完全にこちらが見下ろす形。眼下には海岸線近くの大草原も見えて、実に気持ちいい。風も爽やかで、思った程暑くもないし、どうも利尻とは相性が良いらしい。そうして4回目の休憩場所を探していると、いきなり視界が開けて7合目・1,200mの長官山に着いた。ここまで来ると眼前に山頂が迫る。谷間にはまだ雪渓が残っていて、6月の寒さを物語っていた。さあ、あとひと登りだ。チョコレートをかじって元気を出し、アタック開始。ちょっと下って鞍部を過ぎると、山頂まで標高差500mの急登が始まる。この登りは結構急で辛い。あえぎあえぎ進んで行く。ただ、ここは既に森林限界の上。あたりは一面のお花畑。振り返れば、大草原・礼文島・北海道本島の大パノラマ。これらに力付けられながら、一歩一歩登って行く。そうして9:45、赤い小さな社の待つ、標高1,721mの山頂に着いた。

 残雪の山頂直下は、天上のお花畑。周囲360°はさえぎる物とてなく、豊かに広がる山麓と、そして遥かに広がる海。礼文島を眼下に見下ろし、昨日走ったサロベツを眺め、さあ飯だ。YHのオニギリにかぶりつく。うまい。永塚君も追い付いて、最初の4人が再び揃ったので、コーヒーを入れる。茶菓子は当然、チョコチップクッキー。

 しばらくすると、夕方の船に乗る三浦・藤村の2人が下山して行った。こっちは急いで降りる理由もないし、まだ時間は早いし、蒸着モードに入る。約1時間、天上の昼寝。

 11:45、下山開始。名残惜しくて、何度も山頂を振り返る。しばらく行くと、鴛泊・沓形ルート分岐点。登りは鴛泊ルートを使ったので、下山は沓形ルートをとる事にする。潅木の急斜面を、つづら折りを繰り返しながら降りて行くと、約100mに渡って登山道が土砂崩れに流されている所にぶち当たった。話は聞いていたが、こりゃすごい。斜度は30°以上あるだろう。ズルっと行ったら一貫の終わり。炎天下、冷汗をかきながらのトラバース。一応ペンキで印はついているものの、浮石だらけ。一度、進退に窮して左手の岩をよじ登った。ああ怖かった。ここから先は尾根歩き。中々ペースが上がらない。小さなピークがあったので休憩。と、背後で凄い音が。振り向くと、山頂直下の岩場が崩れ、クマ程もある岩が砂煙を上げて落下して行くのが見えた。利尻山頂付近の風化は、思ったよりも進んでいる。この道も、あと数年で廃道となるだろう。荒々しい槍が乱立するこの眺めも、これが見納めかも知れない。そうして道は樹林帯に没し、後は単調な下りとなる。14:40、車道に出た。丁度タクシーが降りて来たので、つかまえて沓形へ。パンとジュースを買い込み、バス停でほおばる。15:15のバスに乗り、15:40、YH着。

 夕食後、YH横の展望台に夕陽を見に行く。と、付近の民宿・旅館からやって来た、おじさんおばさんが山ほどいた。この時期、利尻礼文の宿は(YH以外は)全て満員なんだそうで、秘境ブームと言う奴かねえ。真っ赤な夕陽が礼文に沈み、鳥が家路を急いでいる。YHに戻り、明日の予定を立てる。最初は、利尻一周54kmを完歩するつもりだったけど、いくら声を掛けても、付き合おうと言う物好きが現われない。今の時期、そんな酔狂な奴はいないのか。さすがに一人で54kmを歩く気にもならず、結局明日はレンタサイクルで島一周した後、夕方の船で島抜けする事にする。問題はどこに行くか、だ。礼文なら船で50分。8時間コースは花が咲き乱れているだろう。が、「礼文3泊の後、稚内−札幌の夜行」と言っていた奴がまだいるはずである。狭い島の事、どこかで出くわして「何しに来た」と言われるのも悔しいので、明日は稚内に泊まり、明後日は大雪を目指す事にした。


Intermission

7/6(月) 目が覚めるとド快晴。朝飯を食い、YHのママチャリを借りて、利尻一周54kmに出発。昨年9月、雨の中15時間半かけて歩いた道を、今日は自転車で回る。

 沓形岬で礼文を眺め、仙法志では博物館に寄る。南浜湿原は花が全く無く、当て外れ。盛りは6月頃だそうだ。オタドマリは沼に山が映って美しかった。そうして、鬼脇着12時。「はせ川」に入り、ミソラーメンを食う。隣のサ店に移動し、去年利尻で出会った連中に絵ハガキを書く。13時、鬼脇発。

 鬼脇から鴛泊まで18km。この間、小さな集落があるだけで、町らしい町は無い。抜けるような快晴の下、ただひたすらにペダルを漕ぐ。海が大きく広がる。ひとつのカーブ、ひとつの坂ごとに、1年前の小さなエピソードが甦る。あの豪雨の中、共に歩いた4人の仲間達は元気だろうか。辛く。長く、愉快だったあの日。帰る事はないと知りつつも懐かしがってしまう。北海道にはそんな思い出が多すぎる。だから困るんだけど。野塚岬の手前の最後の坂を「風来坊」を歌いながら駆け上がる。本当ならこの坂は、自転車では無く自分の足で登りたかった。もう一度この道を歩く日があるだろうか・・・。

 YHに帰って荷物をまとめ、16時のフェリーで島を後にする。

7/7(火) 朝飯を食って稚内駅へ。「宗谷」は8分の入り。旭川までの4時間、ただボーっとして過ごす。11:52、旭川着。気温32℃。暑い!! あれこれと買い物をし、13時のバスに乗る。14時、天人峡着。やっぱり暑い。次のバスまで2時間。待合室に荷物を置いて、羽衣の滝を見に行く。落差日本第2位と言う滝は、豪快さは無いものの、中々見事。さらに10分行くと「東洋のナイアガラ」と称される滝があると言うので、足を伸ばす事にする・・・ 馬鹿野郎!!!。何だこれは。腹を立てながらバス停に戻る。

 次のバスまで1時間。ヒマを持て余していると、女の子2人連れが来たので話しかける。と、昨日旭岳温泉のYHに泊まり、今日大雪に登って来た所であった。山の様子などを聞く。今年はまだ残雪が多く、雪解け水で靴がズブ濡れとの事。ただ、例年今頃発生する虫の大群は、まだ出ていないらしい。「YHで作ってくれた巨大オニギリがまだ余っている」と言うので有難く頂戴し、15時半の旭川行に乗る彼女達を見送る。16時、旭岳温泉行のバスに乗り、16時半、YH着。旭岳が赤く染まっている。

 宿泊手続きをとり、温泉につかり、さあ夕飯。ご飯をよそって、食うぞ! と思いながらひょいと横を見ると、一人おいた隣にどこかで見たような奴が座っている。「何でここにいるんだ!?」「礼文の花は十分に堪能したから、2泊で島抜けすることにしたの。利尻に渡ろうかとも思ったけど、「何しに来た」と言われるのも悔しいから・・・」。
 
 

なんてこったい!




 夕飯後、隣の新築のログハウスを消灯まで自由に使っていい、と言うので、明日6時間コースを歩く4人で、ビールを飲みながらウダウダ雑談。


Act  II 7/8(水)大雪山

 5:15起床。眠い目をこすりながら洗面を済ませ、6時のロープウェイに乗るべくYHを出る。平日でもあり、ロープウェイはそれほど混んではいなかった。終点から少し上がると姿見の池だが、まだ雪に閉ざされている。今年の雪解けは、ずいぶん遅れているんだなあ。ここで朝食。巨大おにぎり(本当にでかい)を頬張る。天気は快晴。風が冷たい。午後から天気は下り坂と言う予報なので、先を急ぐ事にする。旭岳への急なガレ場を、エッチラオッチラ登って行く。今日のパーティは4人。仙台から来た小島君は、中岳の分岐までは一緒だが、そこから黒岳石室を目指すという。本格装備に加えて非常食もキッチリ用意してあり、かなり重そう。名古屋から来た下嶋君は、ツーリングの途中とて、ガレ場を登るには靴が今イチ。そういった人のペースに合わせるなんて頭があろうはずもなく、身軽なPはホイホイ登っていく(雌阿寒でもそうだった)。困ったものである。途中で超巨大な荷物の人を追い越す。挨拶がてら行き先を聞くと、富良野岳との事。何日かかるんだろ。

 高度を稼ぐに連れ、遥か彼方にまで素晴しい残雪模様が広がり始める。登山道の右手には、今を盛りと咲き競う高山植物の大群落。左手は、地獄の底を思わせる爆烈火口。しかし・・・・。こんな所でカメラが電池切れを起こすとは、一生の痛恨。まあ、いいか。写真を撮るために旅をしてるわけじゃない。写真はあくまでオマケだから。こんな時もあるさ。1時間半で、旭岳山頂着。しかし、寒い上に風が強く、カッパを着ても凌ぎ切れない。早々に退散する。

 旭岳から間宮岳に向かう下降路は、残雪に埋め尽くされて絶好のゲレンデ。シートを取り出し、ソリとする。快感快感。アッと言う間に下まで降りる。しかし、尻が濡れてしまったのにはマイッタ。鞍部まで降りると風も止んだので、小休止。コーヒーを入れる。山で飲むレギュラーコーヒーは美味い。わざわざ一式持って来たかいがあった。ここから間宮岳までは、何と言う事もない登り。おまけに天気も回復して来て、ルンルン気分。溢れかえる高山植物を愛でながら、快適な縦走を味わう。高原状のピークを持つ間宮岳を過ぎると、右手にお鉢平の荒涼たる火口が現われる。しかし、万事に付け大雪は大きくてゆったりとしているなあ。確かにここは、神々の遊ぶ庭に違いない。

  

左:旭岳山頂にて 中:中岳温泉 右:残雪の裾合平

 そんな訳で、11時前に中岳分岐に着いてしまった。6時間コースはここから裾合平へ下るのだが、時間もあるしもう少し進むことにする。どこがピークなのか分からない中岳を過ぎ、北鎮岳分岐へ。今日の小島君の宿である黒岳石室は、もうすぐそこに見える。この先どうやって時間をつぶすか、彼は真剣に悩んでいた。帰りのバスの時間もあり、Pと下嶋君はここで引き返すという。しかし、眼前に北海道第二の高峰が控えていると言うのに、引き下がる訳にはいかない。荷物をデポし、小島君と二人、全速力で駆け上がる。8分30秒で山頂に着いた。絶景!! ここの展望は旭岳に勝る。比布・愛別・安足間・永山・黒・桂月・北海、大雪の頂の数々。そして遥かに上川盆地。わずか5分の滞在だったが、今回の旅の一番の収穫だった。

 そうして小島君に別れを告げ、今来た道を駆け下る。中岳分岐で二人に追い付いた。ここからは一気の下降。相変わらず、どこもかしこも花だらけ。でも、全く食傷はしなかった。しばらく行くと、本日のハイライト、中岳温泉。道の脇に、更衣室も何もなく、ただ露天風呂だけが鎮座している。バスの時間も気になるけど・・・ え〜い、入っちまえ。下嶋君と二人、服を脱ぎ捨てドボンと飛び込む。ああ、快感。日本人に生まれてよかった。Pの方は、おかげで足も浸せなかったとぶんむくれ。何で服着てる方が恥ずかしがるのか、よく分からん。

 もう少し降りると、急斜面が終わり、ここが裾合平。さすがにこの時間に登って来る人はなく、大雪原を独り占め。余人のいない広大な雪田の中を徘徊するのは楽しい。Pは、残雪に「カイジュウ」「ワニ」などと名前を付けて遊んでいる。天気は快晴。暑いくらい。旭のテッペンで、誰がこんな事を予想したろうか。

 さすがにいい加減疲れて着た。それでもバスの時間があるので、汗をかきながら先を急ぐ。再び旭岳が見えてくると、観光客の姿も散見され、ゴールが近い事を教えてくれる。


Epilogue

 ロープウェイの山麓駅からYHまで、荷物を取りにポクポク5分程歩いて下る。YHの前では、14時半のバスで着いた人達が、15時までカギが開かないと言って突っ立ていた。YHの人は買い物にでも行っているのだろう。荷物は朝の時点で入口前出しておいたので、こちらは別に問題ない。ディバッグ中味をバックに移す。と、Pが「あっ、いけない。会員証取り忘れた!!」。15時のバスに乗らないと、Pは今日の宿のたどり着けないはずである。YHの人がその前に戻って来ないと・・・。

 「あった!!」。よく見ると、入口のガラスに会員証がセロテープで止めてある。こーゆー奴のために、YHも色々と考えてくれるわけだ。しかし、あー恥ずかしい。

 山麓駅まで戻ってバスに乗る。満員の乗客を乗せて、バスは大雪を後にした。少しずつ遠ざかる旭岳を何度も振り返る。しばらく行くと、道は樹海の中に沈み、後は見る景色とて無くシートにもたれかかる。愉快で快適だったけれど、ハードな5日間だったな。30℃の旭川に着いたのは16時半。上川に向かうPを「オホーツク」に見送り、駅前のデパートで早めの夕飯。18時の連絡バスに乗って空港へ。あれこれ土産を買い込み、19:10、夕闇迫る旭川をテイク・オフした。