まじかる みすてりぃ つあぁ 後編
 

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5月6日

 午前9時、松山を発進する。ガスを入れ、R56を10kmほど南下、伊予市で右折してR378に入る。松山−宇和島のメインルート・R56は ここから内陸部に入るのだが、以前予讃本線から見た瀬戸内の夕景があまりに美しかったので、海沿いのR378を選んだ。風は一寸冷たいものの、空は快晴。 前に予讃線の鈍行からみた378は、まだ未改良区間が多く、狭くて曲がりくねった1車線道が大半だったが、あれから3年半が経ち、一直線の2車線道に変 わっていた。青い海を見ながら。真新しいアスファルトの上を快走する。

 30分ほどで長浜に着く。JR予讃線はここから内陸へと行先を転じ、肱川沿いに大洲を目指す。予讃線と平行する県道を通って、R56に合流し てもいいのだが、折角だし、このままR378を直進する事にする。

大失敗であった!

 四国の三百番代の国道の恐ろしさを、嫌と言うほど味わう事になる。舗装してはあるものの(だから入ったのだが)、道幅は1車線ぎりぎり。おま けにブラインドのヘアピンカーブの連続。ガードレールの向こうは断崖絶壁。突然飛び出してくる対向車に神経を擦り減らしながら、のろのろと30kmで進ん で行く。長浜−八幡浜の40kmに、2時間近くもかかってしまった(ちなみにこの後の八幡浜−宇和島40kmは40分かかっていないのだから、378の五 是ヶ峠越えがどんなにしんどいか、想像がつくと思う。四国には更に四百番代の国道もあるのだが、一体どんなんだろ)。

 やっとのことで八幡浜に着く。あ〜、ひどい目に会った。喫茶店に入ってひと休み。コーヒーを頼む。ここは夜はカラオケパブになるらしく、壁に デュエットしているポラロイド写真がたくさん貼ってあった。そう言えば千葉さんのカラオケを聞きそこなったな。最近凝っているそうだが。

 コーヒーを飲み終え、また走り出す。県道を少し走ってR58へ。広くて真っ直ぐな道は走りやすいなあ。ただGW中のせいか、平日にもかかわら ずパトカーがウロウロしている。あんまり気持ちのいいもんじゃない。40分で宇和島。市内の名所・お城と天赦園は前に来た時見ているので、今回はそのまま 通り過ぎる事にする。時間も無いしね。出来れば桜の花の頃にもう一度来たいもんだ。城下町特有の入り組んだ街並を、何度も右左折しながらやり過ごし、再び アクセルを開ける。

 宇和島郊外のファミレスで昼飯にする。ついでに電話で明日の天気を確認。明日はどうやら昼から雨らしい。さて困ったな。今日は大堂か足摺あた りに宿をとるつもりなんだけど、あの辺は道が悪いからなあ。378ほどではないけれど、あんまり雨の中走りたい道じゃない。どうしよう。まあ・・・いい か。宿毛に着いてから決めるとしよう。

 R58の宇和島−宿毛75kmは、足摺宇和海国立公園の中を走る、実に気持ちいい道だ。リアス式海岸に沿って、アップダウンの多い緩いカーブ が続く。そしてこの宇和海は、日本の国立公園の中で、多分一番知名度が低い所だろう。おかげで瀬戸大橋に沸く四国の中でも、こうして多島海の美を堪能しな がら、ゆったりと堪能できる。天気も上々。風が気持ちいい。この道を走るのが、今回の旅の一番の目的だった。3年越しの夢、やっと叶ったよ。時速80km を保ちながら御荘を通過。宿毛まであと23km。愛媛・高知県境を越えるべく、道は内陸へと向かう。

 宿毛着2時。2年前に入った喫茶店に入り(何かお茶ばかり飲んでるみたいだな)、もう一度天気予報を聞く。九州の西に低気圧があって、こいつ が明日は大雨を降らせるらしい。しょうがない。この夏の北海道ツーリングと言う大目標がある以上、今回は無理はしたくない。足摺は次回に回そう。また秋に でも来るさ。今日は中村泊に決定。あと22km。

 そんな訳で、3時には中村に着いてしまった。まだ陽は高い。しかし、この先は須崎まで街らしい街はない。今日の走行距離は200kmを越えて いるし、この上更に90kmも走る気が起こらない。1時間ほど四万十川のほとりでボケ〜っとする。知らない土地でこ〜ゆ〜無意味な時間を過ごすのは、いい もんだな。そのあと、駅の宿泊案内所でビジネスホテルを紹介してもらい、ほっとひと息。このホテルも、昨日までは満員だったんだそうだ。出発を1日遅らせ たのは、やはり正解だったかな。さて、明日は昼前から雨らしい。早起き・早立ちすべく、今日は早く寝るか。


5月7日

 午前7時、ビジネスホテルを出発する。雨が降り出す前に出来るだけ距離を稼いでおこうと思ったのだが、1kmほど行ったGSでガスを入れてい る最中に、早くもポツリポツリと来た。あ〜あ、ないったなあ。カッパを取り出し、荷物をビニール袋に入れる。大降りにならなきゃいいがな。荒れる鉛色の太 平洋を右手に見ながら、R56を東進する。

 R56は、一見海岸線沿いを走っているように見えるが、実は中村−須崎間で2回峠を越えている。247mの片坂峠と293mの七子峠である。 どちらも大河四万十川の流域を越える峠だから、かなり険しい。片坂峠を越える頃には、雨は土砂降りになっていた。小さいカーブをこなしながら、VTZは峠 を登って行く。濡れたマンホールや白線(センターラインや横断歩道)って奴はスケートリンクみたいなもんで、ものすごく滑りやすい。バイクの場合、滑れば 即転倒となる。そのマンホールが、道の真ん中、しかもカーブの頂点にあったりして、危ないこと夥しい。日本の道路はバイクの事を全く考えずに作ってあるこ とを痛感する。神経を集中しながら、やっとの事で片坂峠を越え、窪川の街を通過し、今度は七子峠の登りとなる。大型トラックが道を塞ぎながら、ノロノロと 急坂を登っていく。ブラインドカーブの連続では追い越す訳にもゆかないし、こちらもトラックにくっついて、ノロノロと走る。この方が楽といえば楽だが、そ の分雨の中を走る時間が増える。痛し痒しだ。

 須崎に着いたのが9時半頃。ファミレスがあったので、ここでモーニングを頼む。新聞を読みながら40分ほどいたが、雨が弱くなる気配もないの で、出発する事にする。しかし、濡れたカッパをもう一度着るのは気持ちが悪いなあ。

 ここから高知までは40km。天気が良ければ、太平洋岸を走る横波黒潮ラインを行くのだが、この天気じゃあね。頭から波をかぶりそうだ。大人 しくR56を行く事にする。このあたりはさすがに交通量が多い。安全運転。

 そんな訳で、正午前には高知に着いてしまった。さてどうするかね。天守閣が現存している12城でまだ行ったことがないのは、北陸の丸岡城と高 知城だけだから、お城に行きたいんだけど、この雨じゃあね。お城は次回のお楽しみにとっとくとしよう。駅前のサ店でサンドイッチを食べる。高知大出身の人 が推薦していただけあって、なかなか旨い。ここで再び天気予報を聞く。あかん。午後は更にひどくなるらしい。しょうがない。今日はこのまま宿に入っちまお う。定福寺YHに予約の電話を入れ、高知を後にする。

 高知−高松を結ぶR32は、主要国道ではあるが、四国山地を縦断するため、かなりのワインディングロードである。高知を出た時は前後を取り囲 んでいた車も、途中で1台2台と脇にそれて行き、384mの根曳峠にかかる頃には、たった1台となった。根曳峠を越えれば、吉野川の流域。今降っている雨 は、紀伊水道に注ぐ事になる。ここから池田までは、長い長い下り坂。吉野川の川岸に沿って、R32は数多くのカーブを刻みながら、北へ向かう。叩き付ける ような雨。カッパを着ていても、全身は既にずぶ濡れである。そして風も吹き出した。時折10m位の突風となって、バイクを襲う。その度に1mくらい、右に 左に流される。とにかくギアを3速に入れたまま、回転数を高めに保ち、後はアクセルワークと体重の移行だけでカーブをクリアしてゆく。こうして操作を極力 少なくして、神経を路面と次のカーブに集中するのが、一番安全な運転法だと気がついた。ようやくバイクと一体となれたな、と感じる。生憎の雨だけど、怪我 の光明と言う奴か。時速60kmで高知・徳島県境を通過し、豊永を目指す。


5月8日

 昨日の雨が嘘のような好天となった。定福寺YH恒例の朝の座禅を受ける。朝の風が心地よい。空が高くて、まるで秋のような気候だ。般若心経が 流れる中、耳と心を研ぎ澄ます。普段聞こえない音が聞こえてくる。

 朝飯を食べて出発。昨日このYHに泊まったライダー5人、今日はまた、思い思いの方向に散る。クラクションを鳴らし、ひとりまたひとりと発進 して行く。僕もそろそろ出掛けるとしよう。再びR32を北上。大歩危・小歩危の脇をすり抜ける。今日はワインディングと景色を楽しみながら。祖谷口を過 ぎ、池田でR192に入る。徳島まであと90km。吉野川南岸の真っ直ぐな道を、たんたんと、ただひたすら駆け抜ける。3日間の疲れと、単調な道が眠りを 誘う。途中、少し寝ていたかもしれない。

 小松島から和歌山までフェリー。2時間の船の旅。

 和歌山上陸は16時。やっと本州に帰って来たか。のべ千kmの今回の旅も、いよいよあと60kmを残すのみ。紀ノ川沿いのR24を橋本まで。 やっぱり本州は車が多い。信号も多いしね。しばらく忘れていた街乗りを思い出して、信号待ちの車の脇をすり抜ける。橋本からR371。紀見峠のトンネルを くぐり、細かいカーブを河内長野に向け駆け降りる。車が詰まっているので、ノロノロ運転。河内長野手前では。渋滞に巻き込まれる。本州だねえ。

 寮に帰り着いたのは18時近かった。何はともあれ、ご苦労さん。VTZ。


☆エピローグ☆

 さすがに疲れた。寮の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んで込んでウトウトしていると、灯台さん、電話! と言う放送に叩き起こされた。寝ぼけまな こで出てみると、受話器の向こうは井上だった。

 「おい、笠浦さんと五野上さんが15日に結婚するんだ。」
 「15日・・・、来週の日曜じゃないか!!」
(やれやれ、これでなんとかオチがついた)



 *本文は、笠浦/五野上両氏の結婚記念に寄せた文集に掲載したものです。