君 よ 今
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 午前4時30分。舞鶴から29時間の航海を終え、船はまだ明けきらぬ小樽の港に着いた。朝焼けに赤く染まる小樽の街。デッキに上がり、朝の風を胸一杯に吸い込みながら、1年ぶりに走る北の大地に思いを寄せる。

 4時45分。船の腹が開き、2万tの巨体から次々とライダー達が駈け降りてくる。フェリーターミナル前の駐車場に勢ぞろいした、百台を越すバイクの群れ。けれども荷物の点検が終わると、1台また1台と旅立って行く。クラクションを鳴らしながら、思い思いの方向へ散って行く。今日の行程は長いし、僕もそろそろ出発するとしよう。VTZのエンジンに火が入る。と同時に胸の闘志にも。風と孤独と距離と、そして時間との斗い。見知らぬ明日に向かって、今走りだす。目指すは北の果て、宗谷岬。

 君よ今、北の大地の風となれ!


 当時勤めていた会社の社内報編集部から「私の夏休み」の題で原稿を依頼されたのですが、400字では何も書けない。なので、旅の最初の30分を書き下してみました。周囲からは「カッコ良すぎる」と言われましたが。