帯広の空
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 「北海道には梅雨がない」と言うのは嘘である。本州の梅雨が末期に向かう7月の半ば頃から、北海道も曇りがちの肌寒い(本当に寒いのだよ)日々が続く。もっとも、曇るだけで雨の量は大した事はないのだが・・・。これを「蝦夷梅雨」と呼ぶ。

 7月も25日を過ぎると、空を覆っていた雲も去り、いよいよ夏本番となる。これからお盆すぎまでの僅か3週間だけが、北海道の夏である。観光地には人があふれ、道路を道外ナンバーの車やバイクが駆け抜ける。今が北海道の一番つまらない季節だとも知らずに・・・。

 太平洋高気圧に覆われた夏の十勝は、じつに透明度が悪い。月のない、晴れた晩でも4等が精一杯。銀河も何とかその存在が分かる程度。夜の11時。1日の仕事を終え、ひとフロ浴びて、さあ星でも見るかとYHの屋上に出てみても、空はぼんやり。Nikonのフィールド・スコープを持ってる奴がいたけれど、これを使っても、見えるのは木星の縞と衛星くらいのもの。アンドロメダ(*)は白い雲、ジャコビニ・ジンナー(*)は存在すら確認できなかった。朝日を浴びて、あるいは夕焼けの中のシルエットとして、西の地平線にそびえ立っているはずの日高の山々も、夏の間は濁った大気の中に没し、白い闇に包まれたまま、十勝は静寂の秋を待つ。

 今年の北海道は異常高温とかで、お盆が終わっても連日真夏日が続いた。おかげで空も白いまま。午前5時、朝食作りに起きてきても、朝日に黒く輝いているはずの日高山脈は全く見えず、あゝ今日も暑くなりそうだと、濁った空を見上げたりした。

 8月の20日を過ぎても、やはりこの調子。もうすぐ家へ戻らなければならないのに、こりゃだめかなぁ、と思っているうち24日になった。この日は最後の夜と言う事で、消灯後飲みに行った。雨がポツポツ降り出した中、東1南9に広がる小汚い飲み屋の1軒で、他のヘルパー達と安い酒を飲んだ。

 店を出たのは、午前3時を回っていた。ほとんど1ヶ月ぶりだった雨は既に上がり、空は快晴。しかもそこにあったのは、あのぼやけた夏の空ではなく、夜の女王が支配する暗黒の空だった。東にはオリオンをはじめ冬の星々が。北には45°の高さの北極星が。いずれも宝石の如く輝いていた。火照った顔に夜空が心地良い。街中でこんなにきれいな星空を見るのは久しぶりだな。初めて夜の帯広を歩きながらそう思った。

 5時20分起床。眠い。



 *アンドロメダ:アンドロメダ大星雲
 *ジャコビニ・ジンナー:ジャコビニ・ジンナー彗星、この頃6等まで増光していた。