W 杯 ス タ ジ ア ム
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I

 新潟で行われたコンフィデレーションカップの日本−カナダ戦(2001.05.31)で、観客輸送が大混乱しました。

 新潟駅から会場までは5km。一般車の通行を禁止し、チャーターしたバス150台でピストン輸送する予定だったのだけれど、乗り場が1ヶ所しかないため大行列が発生。18時に駅に着いたのに、試合開始の19時半になってもまだバスに乗れない人が続出したとか。スタジアムの定員4万人に対し、150台のバスなら7,500人を運べるので、5往復で37,500人。タクシーや自転車で来る人もいるので、これでOKと考えたのでしょう。

 150台のバスが5往復すると言うことは、全部で750台のバスが発車することになります。1人がバスに乗り込む時間がに3秒としても、50人乗るのに2分半。バスが発車して次のバスが来るのに30秒として、計3分。結局、1つのバス停で1時間に20台しか出せません。バスを停める場所が10台分あったとしても、1時間200台。750台が出るのに4時間弱かかります。実際はもっとかかるでしょう。

 往復8万人と言うのは、準大手クラスの鉄道の輸送量に匹敵します。とてもバスで運べる人数ではありません。「スタジアムを作る」事だけを考えて、作った後の事を考えていないから、こんな事になります。

 担当者のコメントも笑わせます。「予想外の人が来たのかどうか、調べてみる」。チケットを持たずに行った人も少しはいたでしょうが、大した数ではありますまい。当日スタジアムに向かったのは、定員の4万人と大差ないのは明らかです。自らの誤りを認めない役人にも困ったものです。

 お客の側ももう少し何とかしたら、と思います。会場まで5kmなら、50分で歩けます。バスを待っているうちに着いてしまうのにねえ。普段から1時間2時間位は歩くようにしていなければイカン、と思います。これも危機管理でしょう。雨が降っていたならともかく、晴れてた訳ですから。

 蛇足ながら、試合開始後、1枚3,000円のチケットを2枚5,000円で売ったダフ屋が逮捕されたそうです。新聞の誤植でなければ原価割れで販売していたわけで、それで逮捕じゃ割が合わないなあ(笑)。


II

 W杯の会場の1つである大分は、更に悲惨みたいです。300台のバスでピストン輸送するそうですが(新潟より台数が多いのは、駅からの距離が8kmと遠いため)、大分県内には150台しか貸切バスがないとか。まあ、この辺は今から予約しておけば、近県から掻き集める事で何とかなると思いますが。

 新潟は繁華街が駅の日本海側にあり、スタジアムはその反対側なのでまだましですが、大分は街の中に駅があります。新潟の場合、バスが発車してしまえば割合スムーズにスタジアムまで付きますが、大分の場合、駅前には近郊バスも集まって来ますし、一般の車、さらにW杯の観戦の車も来るでしょう。このままでは大分駅周辺の交通がマヒ状態になり、バスが会場に着いた頃には試合が終わっている事になりそうです。

 帰りも大変です。行きはある程度分散しますが、帰りは試合終了と同時に皆が帰り始めますから。中央競馬がメーンレースの後にもう1レースやるのも、帰宅を分散させるためです。GI当日は、さらに芸能人呼んでミニコンサートなんかもやりますし。しかし、試合終了が20時とか21時のW杯では、それは無理です。

 一番近いJR高城駅までの5kmを歩いてもらう案もあるそうですが(途中に休憩所や売店を設けるとか)、W杯の期間中は梅雨ですからねえ。晴れてればいいけど、雨がふったらどないする? 5kmは傘をさして歩くには遠過ぎます。カッパと根性がないと(雨の中、利尻島一周54kmを歩いた灯台の経験による)。

 調べてみたら、大分ではスタジアムの柿落しの大分ー京都戦に2万9千人入って(無料チケットをバラ播いて客を呼んだ)、大した混乱は無かったとか。もっとも、バスを使ったのは3千人で、しかも無料チケットを配った高校とかにも配車したので、駅前大混乱にはなりようがなかったようです。

 ほとんどの人が車で行ったにもかかわらず渋滞しなかったのは立派だけど(道路や駐車場の整備が進んでる?)、本番ではチケットの半分は海外で売られるし、日本人も今回のように地元客だけとは行かず、九州を中心に全国から集まります。やはり輸送はバス頼み。はてさて。


III

 6/2には鹿島スタジアムで日本ーブラジル戦が行われました。ここでは、交通の混乱はあまり起きなかった様です。12,500台分用意した駐車場には、結局9,000台しか来ませんでしたし(最大4kmの渋滞が発生したものの、試合開始までには解消)、鹿島神宮駅からのバスが2,500人、アントラーズのクラブハウスからのバスが4,000人を運び、あとは自転車、鹿島臨海鉄道等でスタジアムへ向かった模様。

 ただ、試合終了後1時間経っても、鹿島臨海鉄道の水戸方面に向う乗客が長蛇の列だったそうです。コンフェデ杯のチケットは売れ行きが悪く、試合の3日前まで鹿島や水戸のプレイガイドで販売してようやく完売しました。このため、水戸からの観客が予想以上に多く、一方鹿島臨海鉄道は単線で、1時間2本しか運転できないため、こうなりました。

 しかし、本番での問題は水戸方面の輸送だけ、とは思えません。6/2は平日だったため、観客は主として茨城県内及び千葉県から来たものと推測されます。その意味ではアントラーズの試合と大差なく、今までのノウハウが生きました。W杯本番では、観客の半数は海外から来ます。彼等が日本で車を運転するとは思えません。更に、日本人の観客も、東京方面からの人が格段に増えるでしょう。車の比率が減り、公共交通機関の比率が上がります。果たして、バス/鹿島臨海鉄道でさばき切れるのか? 今回の結果で安心してしまうのが、最も怖いですね。


IV

 鉄道車両は、1両で250人位運べます。東京ドームを例に取ると、目の前の水道橋駅を通るJR総武線は10両編成ですから、1編成で2,500人運べます。運転は5分間隔ですから、1時間12本で3万人。上り下りで計6万人運べます。更に、後楽園(営団丸の内線)、水道橋(都営三田線)も使えますから、ゲーム終了後にそれなりには混むものの、お客が帰れないと言う事態は発生しません。甲子園球場の場合は最寄り駅が阪神の甲子園しかありませんが、8両編成/5分毎として、1時間に4万8千人運べます。まあ、何とかなりますね。

 さて、これを頭において、W杯スタジアムの観客輸送を考えてみましょう。

札幌:地下鉄福住駅歩10分。
 福住駅が終点なのが辛い所(お客を一方向にしか流せない)。8両編成を5分間隔で運転して、1時間2万4千人。チト辛いなあ。3km歩けば別の地下鉄線に出れますが。

茨城:鹿島臨海鉄道・サッカースタジアム駅歩5分。JR鹿島神宮駅バス15分。
 東京方面からだと、JRで鹿島神宮駅に出て、バスか鹿島臨海鉄道です。ただ、鹿島線が単線ですから、1時間に6両×3本で4,500人くらいしか輸送できません。これがネックです。鹿島神宮までたどり着ければ、後はバスと鹿島臨海鉄道で行けます。歩いても30分だし。
 帰りは鹿島神宮までのバスと鹿島臨海鉄道は大混雑(鹿島臨海鉄道はローカル私鉄で、6両編成を1時間に2本走らせるのが精一杯。1時間3,000人しか運べない)。歩いて鹿島神宮に行っても、その先が1時間4,500人ですから、終電後も積み残しが出るのではないかと思われます。
 今まではスタジアムのキャパが1万人だし、地元客が多かったので混乱はなかったのでしょうが。。。 

仙台:仙台市内から10km。東北線・利府駅から歩1時間。
 既に大混乱を経験済み。仙台市内から車で3時間かかったとか。利府駅は東北線の支線で単線。1時間3往復がやっと。岩切駅からバスを運行予定も、コンフェデ杯の新潟の例を見れば、何時間待ちか分らない。岩切から1時間半かけて歩くのかなあ。

新潟:新潟駅バス15分。
 混乱は既に見た通り。唯一の救いは、駅のスタジアム側が閑散としている事。駅から多少離れても、バスを大量に駐車できるスペースが確保できれば、何とかなるかも知れない。

埼玉:埼玉高速鉄道・浦和美園駅歩20分
 札幌と同じく、終点なのが痛い。おまけにここは6万人収容。6両×5分間隔で1万8千人/時。全員乗るのに3時間はかかる。県の組織委員会が「試合終了後に最後の客が電車に乗れるのは午前1時」と言うシミュレーション結果を出したとか。試合終了が22時で、1時間に乗れる人が1万8千人なんだから、そりゃ最後は午前1時になるわなあ。そんなこと、シミュレーションじゃなくて暗算やん。
 武蔵野線の東川口まで3kmなので、ここまで歩くのが正解。もっとも、皆が皆歩いたら、武蔵野線の輸送力は埼玉高速鉄道以下なので、これまた破綻しますが。

横浜:新幹線/横浜線/地下鉄・新横浜駅歩15分。横浜線・小机駅歩10分。
 ここは7万人収容だけど、これだけあれば大丈夫でしょう。JR東海と交渉して、東京までの新幹線特急券を500円に割り引いてもらえば完璧。

静岡:新幹線掛川駅からバス10分。東海道線・愛野駅歩10分。
 掛川からのバスは使い物にならない。静岡〜掛川〜愛野〜浜松間に普通列車を大増発すればOK。愛野駅は、このスタジアムのために作った駅ですし。東海道線はインフラの質が高いので、JR他社から借りてでも車両をかき集め、試合開始・終了に合わせて8両編成を5分間隔で走らせれば良い。東海道線には特急が走っていないのが大きいですね。

大阪:地下鉄/阪和線・長居駅歩5分。阪和線鶴が丘駅歩5分。
 御堂筋線と阪和線があれば大丈夫。

神戸:今年夏に地下鉄開業予定。
 問題は4両編成なこと。5分間隔として2万4千人/時。JR和田岬線もあるが、単線なので8千人/時が精一杯。チト辛いなあ。3km歩けば山陽本線に出れるが。

大分:大分駅バス25分。
 上に書いた通り。一番近い高城駅は特急も停まらない小さな駅で、何万人もさばくのは無理でしょう。そもそも、日豊本線は特急が毎時2本走っているのでこれがネックになり、東海道本線みたいに大増発する事は無理。まあ、大分駅から歩いても1時間半ですが。


V

 メキシコ五輪(1968)の銅メダルの後、日本サッカーは長期低迷を続けていました。五輪予選もW杯予選も負け続け。そこで、日本サッカーの起死回生を賭けて、1980年代の後半からプロリーグの設立とW杯の誘致が持ち上がったのでした。その後、民族の意地を賭けての韓国の参戦があり(韓国からすれば、W杯に3回も出場し、日韓戦も勝ち続けていると言うのに、W杯に一度も出場していない(2002年W杯の開催地が決まったのはフランスの前)日本にW杯を開催させる訳には行かない)、結局共催になった訳ですが、それはひとまず置いといて。

 さて、W杯が具体論になる所で話が歪み始めます。W杯の開催には4万人規模のスタジアムが最低6つ(最大10、これは規約で決まっています)必要ですが、日本に4万人以上収容できてサッカーがプレイできるスタジアムは、国立競技場と長居陸上競技場(大阪)しかありませんでした。なので最低4つは作らなければなりませんが、4万人規模のスタジアムとなると、本体だけで300億円。周辺の道路整備等も含めると、大変オイシイ工事です。日本中で開催誘致が始まりました。

 その後、共催となったのでスタジアムの数も半分で済むはずですが、日本組織委員会(JAWOC)は開催地を削れませんでした。それでは困る人が沢山いるし、各自治体から既にお金を集めてしまった手前、貧乏なJAWOCには返すお金も無かったのです。結局、日本国内の開催は32試合しかないのに、開催地は10ケ所となりました。

 で、全国各地でスタジアムの建設が始まりました。本来なら着工前の段階で、観客の輸送等のソフト面も議論されねばならなかったのですが、そんなものはお金になりません。そもそも、ゼネコンの責任はスタジアムを作る事で、スタジアムまで観客を運ぶ事は所掌の外側ですからね。開催まで1年を切って、そろそろスタジアムが完成し始めた頃になって、やっと観客の輸送が問題になって来た訳です。ハコモノ行政の典型と言えましょう。

 最近、日韓で観客輸送に関する協議が行われたそうですが、「国家の威信に賭けてW杯を成功させる」と事あるごとに力説する韓国側に、日本側は驚いたそうです。韓国としては、「共催になった以上、韓国だけでトラブルが発生したら国家の面子丸つぶれ」と言う意識があります。当然、各種シュミレーションも進んでいます。一方日本は、スタジアムが完成すればそれでOK、と言う所が開催地がほとんでですからね(全部とは言いませんが)。観客輸送のシュミレーションも、ラフなのが7月に完成予定と言う状況。まあ、JAWOCにしろ県の組織委員会にしろ、トップはサッカーのルールもロクに知らない天下り役人が占めていますから、スタジアムが完成してこれで自分の役割は終わった、と思っているのでしょう。

 後には、観客輸送の問題があるために満員の観客を入れられない、赤字を垂れ流すスタジアムが残る、と。

 新潟県が試算した、W杯の経済効果があります。全部で750億円。ただし、14万人と予想される観客・関係者が落とすお金は22億円で、残りはスタジアム建設や周辺道路整備だそうです。これがW杯開幕を1年後に控え、各地で完成しているスタジアムです。


参考:2002年ワールドカップサッカー大会交通対策指針  2000年3月27日版

1 目   的
 この指針は、財団法人2002年ワールドカップサッカー大会日本組織委員会(以下「JAWOC」という。)をはじめとする多種多様な機関・団体が関与する2002年ワールドカップサッカー大会(以下「大会」という。)の輸送・誘導業務における交通対策上の基本方針を定め、大会関係者及び観客の安全かつ円滑な輸送・誘導を実現するとともに一般交通への影響を必要最小限に抑え、もって大会の成功に資することを目的とする。

2 基本理念
 大会関係者及び観客の輸送・誘導業務は、安全と円滑を確保するとともに、一般交通への影響を必要最小限に抑えるよう行う。

3 体制の確立と関係機関・団体との連携
 大会各開催地においては、交通対策に配慮した輸送・誘導業務を的確に遂行するために必要な体制を確立する。また、JAWOCは、大会開催自治体及び関係警察との間で緊密な連携体制を構築するほか、他の関係機関・団体とも連携を図り、本指針に基づく輸送・誘導業務の実現に努める。

4 合理的な輸送・誘導計画の作成
 大会関係者及び観客が安全かつ円滑に輸送・誘導され、かつ、一般交通への影響を必要最小限に抑えた合理的な輸送・誘導計画を作成する。

5 計画に沿った輸送・誘導業務の実施
 大会関係者及び観客の輸送・誘導業務は、安全かつ円滑な輸送・誘導を実現し、一般交通への影響を必要最小限に抑えるため、計画に沿って実施する。

6 総合的な交通対策の推進
 大会関係者及び観客の安全かつ円滑な輸送・誘導を実現し、一般交通への影響を必要最小限に抑えるため、一般交通の総量抑制、適時適切な交通情報の提供、違法駐車対策等、総合的な交通諸対策の推進に努める。

これで観客が運べるなら、タイムマシンだってすぐに作れるよなあ。